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大学レポート「『空母いぶき』のリアリティ描写について」

今回は空母いぶきという漫画について俺的に

大学で使ったレポートを少し改変して論じてみた。

駄文なので見たい人だけどうぞ!

 

 

 自分は戦闘機や戦車、軍艦等の兵器が大好きである。軍事関係に深い関心を寄せているので、軍事が関係している本をよく読む。

その上架空戦記の漫画や小説に出てくる兵器に深い興味を抱いている。

例えるなら黎明の艦隊の『瞬電(日本版コルセアのような感じ)』や紺碧の艦隊の『電征』なのだ

 自分が今回レビューするのはかわぐちかいじ」作者の漫画「空母いぶき」だ。

彼の著書の中で自分は「ジパング」と呼んだ事がある。
あらすじは空母「いぶき」を保有した海上自衛隊尖閣諸島先島諸島へ突如侵攻し占領をした中国軍と交戦する内容となっている上に、中国海軍航空母艦の艦載機との航空戦もふんだんに描写されている。

 また、制圧された先島諸島を奪還及び抑留された住民を救出するために輸送機で空挺降下した陸自特殊部隊の特殊作戦群による地上戦もかなり精密に書かれてある上に、中国との全面戦争を避けるべく日本政府の苦悩も描写されており非常にリアリティがある描写だ。

 今の日本と中国の関係が悪化しているのを照らし合わせながら読むと実にタイムリーな漫画になっている。多くの人達に是非とも読んで欲しい漫画だ。書店で売られているような日本が必ず勝利する架空戦記とは違い自衛隊員の戦死や護衛艦に損害が出るため一筋縄ではいかない戦闘の描写が描かれている。
 しかし改めて読み直して見ると、自分的に軍事的にちょっとおかしな部分や怪しい部分が幾らかある。

 例えば自衛隊保有している空母描写を見る限りは「いぶき」一隻だけである。

常に空母を運用している状態を作るには最低三隻は必要であるはずだ。

作中の中国海軍は空母を三隻保有しているのにも関わらず「いぶき」一隻のみだけでは常に稼働状態であるのは非常に厳しい上に、「いぶき」を抑止力として使用するのは厳しいのではないか?せめて「いぶき」型を二隻建造するのは無理としても、最低もう一隻程度は建造するべきではないのだろうか?
更にもう一つ、「いぶき」を中心とする空母機動部隊の護衛としてひゅうが型」や「いずも型」等のDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)とイージス艦の防空能力を補完する「あきづき型」と「たかなみ型」が随伴していないのも個人的には気になる描写の一つだ。

 対潜ヘリが搭載されているDDHと先ほど述べた護衛艦が護衛につけば「いぶき」と護衛艦の防空能力及び対潜能力は格段に向上する上に、中国海軍の潜水艦部隊もDDHの対潜ヘリによって手も足も出なくなるはずだ。

 それにもし「いぶき」が被弾したとしてもDDHは「いぶき」の代用としてもF-35の着艦も出来る。せっかく「いずも型」や「ひゅうが型」が海上自衛隊にあると言うのにこれらの艦を機動部隊の護衛に付けないとは何故なのだろうか?
 もし「空母いぶき」を現実で再現するとしたら「いずも型」と「ひゅうが型」の飛行甲板をF-35が着艦した際の衝撃に耐えきれるように改装する必要がある。

 だが「いずも型」は最大でヘリを14機、「ひゅうが型」はヘリを11機まで搭載できるが、ヘリと艦上機は仕様、機体強度や重量と構造の全てからして非常に異なる。
艦載機のF-35は改装によってどれだけ搭載できるかが疑問だ。「いずも型」にF-35を艦載機として搭載する場合については、軍事評論家の兵藤二十八は著書の「空母を持って自衛隊は何をするのか」の見解では、『F-35を艦載機として使うには飛行甲板の構造をよほど強化しないといけない』と、更にもし改造しF-35を搭載出来たとしても、数機程度のF-35しか搭載出来ない第二次世界大戦の時にイギリス海軍が使った「MACシップ」や「CAMシップ」に近い「準空母」になるだけと述べている。
自分の見解としては「いずも型」「ひゅうが型」をもし改装してF-35の艦載型を搭載出来るようにしたとしても、潜水艦対策のために哨戒ヘリなどを搭載する必要があるのではなかろうか。よくてF-35を搭載出来るのは5、6機程だけではないだろうか。潜水艦対策を度外視すれば劇中のように15機は搭載可能ではあろうが飛行甲板や内部は相当な窮屈になるのは間違いないだろう。
次は「いぶき」艦載機の話になるが何とF-35JBしか搭載されていない米海軍の空母に搭載されている早期警戒機や対潜ヘリが一機も搭載されていない

 対潜水艦対策はイージス艦護衛艦に搭載されているヘリと、航空自衛隊のE-767警戒機だけで問題なしであるとでもいいたいのだろうか?
 そして自分が最後におかしいと思った軍事的描写は、同盟国のアメリカが一切攻撃にも援護にも出てこない事である。一応少しだけ描写されているがこれだけ中国が日本に攻撃を仕掛けても恫喝も介入も全くしなかった。やった事と言えば潜水艦による戦闘の監視だけである。

 現実でもし中国軍がいぶき世界のように空母機動部隊によって攻撃してきたら横須賀に駐留している米第七艦隊は即座に行動を開始し中国軍に攻撃を開始するだろう。日米安保を結んでいるアメリカが日本をさらさら見捨てるつもりは無いからだ。見捨てたらアメリカの株は大暴落を避けられないからである。
 どうやらいぶき世界のアメリカはモンロー主義が台頭してしまったその所為か、軍事的プレゼンスが低下してしまったようだ

 同盟国のアメリカが現実でもし「いぶき」世界のような態度を取ったら日中の武力衝突が終わった後には日米同盟破棄の声が日本中から火山のように噴き上がるように出るのは間違いないであろう。
 軍事的におかしな描写は以上として。次は現実の日本でも起こりえそうな描写だ
例えば与那国島宮古島のレーダーが中国海軍の空母搭載ステルス艦上機空爆をされる所、あの描写はありえる事だろう。両島に設置されている陸上自衛隊のレーダーは非ステルス機や中国海軍艦艇なら効果は絶大だが、ステルス機に対して効果は低いと思われる。現に中国は既にステルス機を開発し生産に踏み切っているからだ。
更に両島に設置されたレーダーの索敵範囲を上回る程のミサイルで攻撃されたら無力化される可能性が非常に高いであろう。むしろ現実で日中武力衝突が起きたら真っ先に狙われそうな場所ではないだろうか。
 最後にありえそうな描写は作中に出てくる市民の様子だ。現実でもし日本と中国で軍事衝突が起きたときも自分の住んでいる国だというのに「いぶき」世界のように、まるで他人ごとのようにボンヤリと政府の発表を眺めているだけの人とパニックになり食糧を買い溜めする人が大多数ではないのだろうか。辺りの描写は東日本大震災の直後に露呈したこともあり、現実の日本でも起こりえそうではないのだろうか
 「空母いぶき」という漫画はフィクションとして現実とは違うパラレルワールドの日本国が舞台となっているが、いぶき世界の日本に起きている事が現実に起きないという保証は今の日本の周辺国の時勢を見る限り全くない。このご時世で「空母いぶき」を読み現実世界における日本に尖閣諸島問題等の軍事衝突の危機が存在している事を、頭の中に留めておくのは決して無駄ではないと考える。

 

参考文献

兵藤二十八「空母を持って自衛隊は何をするのか」 2018 5/31 徳間書店

参照したリンク


https://ja.wikipedia.org/wiki/いずも型護衛艦
https://ja.wikipedia.org/wiki/F-15J_(航空機)
https://ja.wikipedia.org/wiki/F-35_(戦闘機)
https://ddv192.jp/weaponcommentary/f35jb/ 空母いぶき 兵器解説
http://agora-web.jp/archives/2031202.html 誤解だらけのF-35戦闘機
https://japan-indepth.jp/?p=23242「空母いぶき」のリアリティその2
https://japan-indepth.jp/?p=23254「空母いぶき」のリアリティその3
https://stonewashersjournal.com/2018/01/29/f35-4/ F35をいずもに載せると自衛隊の戦術はどう変わる?